2019年8月31日(土)
夏も次第に終わりを見せはじめた今日この頃。
ふたりの男は早朝6時台の小田急線に揺られていた。
目的地の渋沢駅まで新宿から約2時間。
車窓を流れる景色は次第に緑色を増してゆく。
そんな中、彼らは恋の話に花を咲かせていた。
向かいの女子高生よりも女子高生らしいテンションで熱弁を奮う33歳。
それが俺達だ。
我々も気が付けば壮年。
幾つかの恋をする中で、自分というものを知ることもあったわけで。
思えば何の傷も無く、惧れや遠慮も知らずに生きていた十代の頃の方がよっぽど上手くやれていたなんて部分も否定できないわけです。
それでもこれまでの経験を通して得た喜怒哀楽には、きっと意味を持たせることができる。
むしろそれを糧として逞しくなろうとすることが大切なのだろうなと思う今日この頃である。
というわけでそろそろ結婚します。
そんなこんな男の熱い恋ばなを交わすうちに、目的地の渋沢へと到着した。
8:00、渋沢駅。
北口から8:20発のバス(大倉行)に乗り込む。約20分かけて山の麓、大倉まで移動するのだ。
登山シーズンながら乗客はそんなにおらず、ゆったりと座ることができた。前日の雨のせいかもしれない。
このレストハウスでトイレを済ませ、準備は整った。今日、俺達は鍋割山に登る。
レストハウスのすぐ近くに登山口方向を示す標識が立っている。
ここからしばらく住宅地を歩く。
山々に囲まれた広々とした土地だ。
畑がたくさんあり、それを電気柵が守っている。
ここらへんでもう空気がおいしい。
やはり将来的に生活するならこういう場所がいいだろうか。
これといった入口ではく、唐突に始まる印象の登山口。
トレイルランニングの人が駆け足で入山していった。
背中を見送りながら俺達も山に入る。
動物除けのネットのあたりは森林の雰囲気だ。
土を踏む感触が気持ちいい。
俺は雨上がりの山の匂いがとても好きだ。
よく行く奥武蔵の山もいつもこういう湿った匂いがしている。
登山口から1時間半程度、なだらかな道を歩く。
のんびりと森林浴を味わえる道程は思わず鼻歌のひとつでも口ずさんでしまいそうだ。
ところで、幼馴染のふくしんとは二人で幾つも山登りをしてきたけれど、改めて考えるとなんかすごい。
大人になった今もこうして一緒に趣味を楽しめていることがとても幸せだなと思う。
小川を渡り、
草原を抜け、
ササミを食う。
なんと朗らかな活動だろうか。
特段疲労することもなく、爽快な空間を満面の笑みで闊歩する。
なぜ上り坂が来ない、なぜだ。
そんな謎を抱えつつも元気漲る俺達は、ここで大量のペットボトルを見つけた。
これはあれだ。山でよくある「山小屋に水を運ぶ」というクエスト。
むかし武甲山に登ったときタカヒロと一緒に攻略したことがある。
「俺達徳を積みましたね!良いことありますよね!」と言っていたあいつは、その後すぐさま彼女ができていた。
これは、やるしかない。
俺はザックの表面に4リットルのボトルを括り付け、中に1.5リットルのボトルを忍ばせた。
ふくしんは4リットルのボトルをその両手に掴み、計8リットルを山頂へと運ぶ。
もはや押しも押されぬマッスルクエスト。
筋肉増強待ったなし。
徳を積んだらマッチョになれます、そういうやつだ。
急に重量を増した荷物を抱え、気合十分で登山を再開する。
途端、山道は変化を見せた。
激烈な急登。
まじかよと。
今まで長らく甘い顔を見せていた鍋割山だけれども、ここでいきなり攻めに転じてきた。
その変貌ぶり、人間だったら二重人格もいいところである。
南野秀一かよ。
本当は冷酷な妖狐蔵馬なのかよ。
好き。
おい、なかなかの登りだな。
背中のペットボトルが俺に語りかけてくる。
ここで筋肉を育むために持参した男のドリンク、プロテインを摂取。
山頂も割と近くなった頃、登山道を少し逸れた場所で一組のカップルに出会った。
そこは視界が開けており、なんとも広い景色が見えるスポットだった。
「一年に一回は二人でここに来るんです」
かわいらしい彼女がそう言うと、ハンサムな彼氏が笑顔で頷く。
最高じゃねえか。
ロマンを漢字で書いたらきっと『鍋割山』になるんだ。
水を背に、ロマンを胸に歩いた登山道。
いよいよ山頂が見えた。鍋割山荘だ。
山ガール二人組が俺のペットボトルを見て「すごい...」と呟いたのを、耳聡い俺は聞き逃さない。
そしてふくしんを見て「え...もうひとりの人見て、8リットルやばくない...」と言ったのも聞き逃してはいない。
筋肉はどうだ!増えたのかい!増えたのかい!
つって景色に入り込む俺達。
空が曇っているのは俺達のせいかもしれない。
鍋割山といえば鍋割山荘の鍋焼きうどん。
かぼちゃの天ぷらに玉子、えのきやなめこなど豊富な種類のキノコがたっぷり入っている。
山頂でこんなに豪華なうどんを提供している山荘のおじさんはすごいよね。
ただ、歳のせいで運び上げる物資の量が少なくなっているそうな。
それもあってうどんは1500円に値上げとなっていたけれど、これを提供するための重労働を考えると納得である。
すげえおいしかったです。
登頂記念ということでお決まりの。
13:30、下山開始。
復路は一旦塔ノ岳方面に登って、小丸尾根から下ってゆく。
時間に余裕があれば塔ノ岳山頂も狙いたかったけどさすがに厳しい。
30分ほど歩いて小丸尾根分岐に到着。
大量のトンボが飛び交っている。
すこし不気味である。
この小丸分岐から一気に二俣分岐まで下山してゆくわけだけれども、このルートは県が管理していない登山道とのことで荒れている。
遭難者が出やすい場所なので十分注意しなければならない。
実際草木が生い茂っていて歩きづらく、登山道らしく見えるポイントが至る所にあるせいで道迷いしそうなルートだった。
尾根下りなので、山のとがった部分を進んでゆく。
ふくしんのアドバイスで常に両脇を確認し、横の景色が自分よりも低いところにあるか、つまり尾根を歩けているかをチェックしながら歩いた。
時折地図を見て尾根の分岐にも気を付けなければならない。
さすが元山岳部である。
小丸尾根分岐から1時間程度で杉の植林地帯に到着。
ここまでくるとしっかりとした登山道になり安心だ。
無事に二俣分岐にたどり着き、来た時に通った登山道に合流。
小川で顔を洗ってすこしのんびりした。
あとはなだらかな道を歩き、大倉レストハウスを目指すのみ。
すげえ楽しかった。また来るぜ鍋割山。
下山後は鶴巻温泉に入って、駅近くの居酒屋で酒を飲んだ。
山登りあとのこれは本当に最高である。そしてこの気持ち良さを分かち合える仲間がいることを、なんつーか嬉しいなと思う。
いつもサンキュー、またよろしく頼むね。






